高円寺のゴダール

高円寺の巨匠、高円寺のゴダールは出鱈目でおもろいやつだったって先に書いたわけだけれど、印象的なことのひとつを思い出した。

彼はタルコフスキーも好きだったわけですね。当時、一言二言余計なことを言いたがるような若僧はタルコフスキーも気に入っている率は高かったわけです。私もそうだったし。
こいつすごいな、と思ったのは、彼が『サクリファイス』が人生で一番好きな映画かもしれない、というようなことを言い出したとき。
何度も劇場に足を運んで帰ってくる。呑み屋で顔を合わせると「全ちゃん、わかってくれよ、『サクリファイス』は本当にすごいんだよ」みたいなこと言われたりするわけ。「でもさ、おまえ、最後までは観てないんだろ」「うん。寝た」なんてな会話を交わす。
彼はいつも寝ちゃうの。で、最後までは観たことがないの。なのに、最後まで観た私に向かって「わかってくれよ、『サクリファイス』はすごいんだよ」って。
恰好いい映像だし、心の波がすっと持っていかれるようなところもあるし、私だって好きだったけれども、生涯一とは思えなかった。
そんなネタみたいな会話を何度も交わしていたんだが、何回目かに映画館で寝てきた彼のロジックが良かった。「今日も寝た。本当にすごいんだよ。あまりに気持ちよくて寝ちゃうんだから。最後まで観られないほど気持ちいい映画なんだよ」
タルコフスキーもすごいけど、おまえもすごいよ。このネタではずいぶん笑い合ったけれども、納得する部分だってゼロではないな。