便器を手で掃除するというのがここ数日爆発的に話題になっている。どこかで聞いた話だなあとひっかかっていたのだけれど、思い出した。
その昔、高円寺に Z.Z.Top というロック・バーの名店があった。私は結構な頻度でお世話になっていて、最高記録は40日連続だったと思う。あの頃はそれなりに体力があったんだなあ。40日連続で呑み屋に通うのはなかなかに大変だからな。
ZZではいろいろな人に出会った。楽しい場所だった。いい音楽をでかい音で聴いて、酒のんで、わあわああれこれ話し合った。もはや店はないけれども、今でも仲良くしている友だちも少なくない。そういえば、マスターには BakaNeko Project のセカンド・アルバムのジャケットを描いてもらったな。
そんなご機嫌な店だったとはいえ、たまには変な人に出会うこともあった。そういうことも呑み屋の宿命だとも言えましょう。たまたまカウンターで隣に座った御仁は40代半ばとかそのぐらいだったのかな。何しろ、私が23、4とかそのぐらいだった頃の話だ。出会う人の多くがおっさんに見えたものだった。なので、もしかしたら、その人はもっと若かったかもしれないね。
その人は話しかけてきた。儲かって儲かってしょうがないそうだ。どんな仕事かと尋ねると、先物の相場で大豆なんかを取り引きしていると言う。君もね、やってみたまえ、少ない予算ではじめられるし、稼げるぜ、なんて調子のいいことを言う。そうなんすか、すごいですね、なんてな相槌を打っていたんだけれども、先物相場で勝ち続けるにはひとつだけ大事なことがあるんだよ、君にそれができればねえ、儲けられるんだけどねえ、みたいなことを言うわけ。酔っ払って売り買いしないとか、調子に乗って借金してまでやらない、とかそういうことですか、と尋ねた。そうじゃないよ。トイレを隅々まで手で磨くこと。これを毎日やる。これができれば先物で勝てるよ、と。
え?
当時の私は思った。トイレは適切な洗剤と適切な用具をもってして掃除すべきだろう、と。素手で磨くのは衛生上よろしくないだろう、と。こんなことを真顔で言うおっさんの相手なんてしてられねえな、と。そんなわけで、その人との会話は、あっ、ぼくには無理です、お疲れさまです、的な感じで終わった。その後、その人を二度と見かけることはなかった。
トイレ言うたら、ノロやコロナの感染候補のエリアとも言われるとこやおまへんか。素手で磨くなんてとんでもない話どすえ。